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タレント等が契約を更新しないと事務所に申し出たのに引き留めることはできるのか

契約書式

 
 
 
 
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前々回、「能年玲奈(のん)が事務所を退所した経緯が垣間見える裁判」という記事を書かせて頂きました。
 
この記事では、現在、ドラマ「ミス・キング」の主演をはじめ女優として大活躍されているのんさんが、かつて「能年玲奈」という本名で「レプロエンタテインメント」という事務所に所属して活動し、その後退所に至るまでの経緯を、事務所と文芸春秋との裁判の内容を通じて書いたものとなります。
 
この裁判は、当時、能年玲奈さんの退所等について週刊文春に掲載された記事によって、能年玲奈さんがかつて所属していた「レプロエンタテインメント」という事務所が、名誉を棄損されたとして週刊文春を発行する文芸春秋社に損害賠償を求めて訴えたという裁判(東京地判平成31年4月19日 平成27年(ワ)第15736号)なのですが、この裁判では、能年玲奈さんの退所までの経緯が色々と垣間見える点が非常に興味深かったので前々回記事としてまとめて書いた次第です。
 
こうした能年玲奈さんの退所までの経緯の中で、タレント等と事務所との契約(専属マネジメント契約・所属契約)という観点から、気になる点として前回「タレント等が会社設立することは事務所との所属契約に違反するのか」という記事を書かせて頂きましたが、もう一点気になる点がございますので、今回はそのことについて書かせて頂きます。
 
【タレント等が契約を更新しないと事務所に申し出たのに引き留めることはできるのか】
 
能年玲奈さんは、NHKのテレビ小説「あまちゃん」でブレイクしましたが、上記の裁判によりますと、この「あまちゃん」の撮影中から所属事務所との関係性が悪化していき、「あまちゃん」の放送終了から半年ほどで、能年玲奈さんは事務所に対し、2014年6月末の期間満了をもって退所する(専属芸術家契約を更新しないことを希望する)旨の通知をしました。
 
おそらく、能年玲奈さんと所属事務所との契約(専属芸術家契約)の契約期間満了日が2014年6月末だったのでしょう、そのタイミングで契約を更新せずに契約を終了させることを能年玲奈さんは望んだわけです。
 
契約期間の途中でやめるわけではないので、事務所との契約をやめたい(事務所を退所したい)という場合において、最も適切な対応と言えます。通知する時期も、2024年3月頃ということで、契約期間満了日の3か月以上前までに通知しているわけですから、通知をする時期としても問題なく、適切な時期だったと思います(通常は、更新しない場合は契約期間満了日の1ヶ月前までに通知することと契約書に定めるため)。
 
しかしながら、事務所は契約終了を認めず、能年玲奈さんに対して契約更新を求めたようです。そのため、この時点から能年玲奈さんは弁護士に依頼して事務所を退社できるよう協議を進めていたようですが、協議は難航したようです。
 
ここが不可解な点です。
 
というのも、契約期間満了をもって契約を終了したいと当事者の一方が通知すれば、通常はそれで契約終了となります。おそらく、能年玲奈さんと事務所との契約書の中でも、「甲乙のいずれかが契約期間満了日の1ヶ月前までに契約終了の意思表示をしなければ契約は自動更新されるものとする」というように自動更新の記載があったのではと推測できますが、これは契約期間満了日の1ヶ月前までに契約終了の意思表示をすれば契約期間満了をもって契約終了することができることをも意味します。
 
そのため、事務所側が何の権限をもって契約を終了させないようにしていたのかが分かりませんが、本来であればこの能年玲奈さんの事務所に対する通知をもって、能年玲奈さんは事務所との契約を終了して退所できるはずだったように思います。
 
2025年9月30日に、タレント等とその所属事務所等が締結する契約の実態調査を行った上で、公正取引委員会は、タレント等とその所属事務所等が締結する契約の適正化のための指針を発表しましたが、この指針の中で、タレント等の移籍・独立を事務所が妨害しているとみなされる行為として、「契約期間満了時にタレント等を退所させない」というものが挙げられています。
 
こうしたタレント等の移籍・独立を事務所が妨害しているとみなされる行為を行うと独占禁止法上の問題が生じると公正取引委員会は指針の中で示しております。
 
こうした公正取引委員会の考え方などに照らしますと、やはり能年玲奈さんが2014年6月末の契約期間満了をもって退所する(専属芸術家契約を更新しないことを希望する)旨の通知を事務所にした時点で、能年玲奈さんが退所できるようにすべきだったのでしょう。
 
2014年6月末の通知後、能年玲奈さんと事務所との関係性は悪化の一途をたどっていき、その後週刊文春等で能年玲奈さんと事務所とのトラブルについての記事が掲載されるなど、事務所にとってもダメージが生じる事態となってしまいました。
 
現在、公正取引委員会は、とりわけタレント等の移籍・独立を妨害する行為に対して厳しくあたっていますので、今後、タレント等が事務所との契約(専属マネジメント契約・所属契約)を契約期間満了で終了したい旨を申し出た場合は、それを受け入れて契約終了させるのが妥当な対応になると考えます。
 
 

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2009年に当事務所を設立し、著作権等の知的財産権の専門家として、主にIT系、エンタメ・芸能・コンテンツ系のクライアント様やクリエイター様等から多数の契約書(英文契約書含む)作成・リーガルチェック業務のご依頼を頂いております。
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