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人気のあるYouTuberやVTuberは事務所に所属して活動することもよく見られますが、そうしたYouTuberやVTuberが事務所に所属し、事務所との契約(専属マネジメント契約・所属契約)の有効期間の途中で事務所を辞めたい場合、実際問題としてなかなか事務所が認めてくれないということは多いかと思います。
この点、タレントと事務所との契約(専属マネジメント契約・所属契約)も、以前は同様に、タレントが事務所を契約の有効期間の途中で辞めたいといってもなかなか辞められなかった(場合によって有効期間が満了するタイミングでも辞めさせてくれない)という状態ではありました。
しかし、公正取引委員会がタレントと芸能事務所との契約内容の実態調査に乗り出して、そうしたタレントが事務所を契約の有効期間の途中で辞めたいといった場合には、できるだけタレントの希望通りに辞められることができるように、という指針を公表してから、割とタレントも事務所を辞めやすくなってきたように見受けられます。
現に、タレントの事務所移籍や独立がここ数年非常に増えているのがその表れだと言えます。
しかしながら、YouTuberやVTuberにおいては、事務所との契約を途中で辞めようと思っても、なかなか辞められないというのが現状です。
そうした中、あるカップルユーチューバーが事務所に所属し、事務所と専属マネジメント契約を締結した後に、契約の有効期間の途中で辞められるかどうかが裁判で争われた事例がございます(東京地裁令和6年7月8日判決 令和5年(ワ)第70722号)。
今回は、この裁判を通じて、YouTuberやVTuberが、事務所との契約を有効期間の途中で辞められるのかどうかについて解説したいと思います。
【カップルユーチューバーと事務所との経緯】
まずは、本件カップルユーチューバーと所属事務所との一連の経緯を以下に書きだします。
(尚、裁判でカップルユーチューバーの名前は匿名になっているため具体的にどのカップルユーチューバーなのかは不明です)
・2022年4月16日
本件カップルユーチューバーと事務所(ハチドリーム株式会社)との間で、専属マネジメント契約を締結する。本件専属マネジメント契約の、契約期間に関する内容は次のとおり。
第12条
- 契約期間は、契約締結日より3年間とする。
- 本件カップルユーチューバー及びハチドリーム株式会社は、前項に定める契約期間内であっても、合意により解除することができる。
- 本件カップルユーチューバーは、契約終了後6ヶ月間は、ハチドリーム株式会社以外の芸能活動のマネジメント業務又はこれに類似する事業を行う法人又は個人と契約して、芸能活動を行ってはならない。
↓
・2023年7月14日
本件カップルユーチューバーは事務所(ハチドリーム株式会社)に対し、専属マネジメント契約を2023年7月14日をもって解除する旨の意思表示を記載した解除通知書を送付する(契約期間は、2025年4月16日まであるので、途中で解除するという意思表示です)。
【裁判所の考え】
さて、上記のとおり、本件カップルユーチューバーは、事務所との専属マネジメント契約の有効期間の途中で辞めたいということで解除通知書を事務所に送付しましたが、事務所はこれを認めなかったので裁判となったわけです。事務所の言い分としては、本件カップルユーチューバーの解除通知は法的には無効だから、専属マネジメント契約は解除されていない・・・まだ法的に有効なのだという主張です。
それに対し、本件カップルユーチューバーは、解除通知は法的に有効だから、事務所との専属マネジメント契約は解除通知をもって終了しており、もう事務所に所属ではありません、という主張です。
これに対し裁判所は、次のように判断しました。
・本件専属マネジメント契約は準委任契約であるから、民法656条が準用する民法651条1項により、契約の当事者がいつでもその契約を解除することができる。
・本件専属マネジメント契約は、本件カップルユーチューバーの芸能活動におけるマネジメントを主たる目的とするものであり、委任者である本件カップルユーチューバーの利益のために締結されたものであるから、本件専属マネジメント契約は途中解約を前提としないものではない(要は途中解約できる性質のものであるということ)。
・本件専属マネジメント契約において、本件カップルユーチューバーが解除権を放棄する旨の特約は明記されていない
上記のような理由に基づき、本件カップルユーチューバーが事務所に対し送付した解除通知書は法的に有効であり、よって事務所との専属マネジメント契約は終了している、と裁判所は判断しました。
民法651条とは、次の文言が記載されている条文です。
「委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。」
この内容に基づき、本件専属マネジメント契約は準委任契約であるから、当事者である本件カップルユーチューバーはいつでも契約を解除することができる、という裁判所の判断であったわけです。
本件裁判所の判断に基づけば、だいたいのYouTuberやVTuberが事務所との契約を途中で辞めたいと思ったときに、民法651条に基づきいつでも辞められるということになろうかと思います。
次回は、そのあたりをもう少し掘り下げたことを書いてみたいと思います。
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